「嘘でもいいから計画を立てる」——会長から教わった仕事の本質
在職中、会長から繰り返し言われた言葉がある。
「嘘でもいいから計画を立てろ。計画を立てたら実績との比較を行え。そしてその差を味わえ。」
初めて聞いた時は、「嘘でもいい」という言葉に引っかかった。計画は正確じゃないといけないのでは、と思った。
でも長年実践してみて分かった。これは「適当でいい」という意味ではない。「完璧な計画を待っていると、いつまでも計画が立てられない」という意味だ。
製造業の業績計画は、不確定要素だらけだ。受注がどれだけ来るか、材料費がどう動くか、設備が止まるかもしれない。「全部確定してから計画を立てよう」と思っていると、計画が立てられないまま月末を迎える。
そうではなく、「今持っている情報で最善の計画を立てる」。そして実績と比較して、ズレを確認する。「なぜズレたか」を考える。それが次の計画の精度を上げていく。この繰り返しが、経営判断の解像度を上げる。
私自身は売上内容を細分化し、費目ごとに原価と紐づけ、固定費・変動費の割り振りをして計画を立て続けた。「月次が締まらないと利益が分からない」という状態から脱し、売上計画が出た時点で利益の予想が出せるようになった。改善の取り組みで原価が下がれば、その効果も計画に織り込んで将来の損益が見通せる。経営会議の議論の質が変わった。
私が退任する時、会長から「滝本は俺の言ったこの事を愚直にやり続けてくれた」と声をかけてくれた。その言葉は今も大切にしている。教えてもらった最大のことは、計画の技術ではなく「計画を立て続ける姿勢」だったと思っている。
嘘でもいいから計画を立てる。その差を味わう。これを繰り返せば、どんな人間でも経営数字に強くなれる。最初の計画は確かに「嘘」に近い。でもズレを分析する過程で、数字への解像度が上がっていく。
